インタビュー

添加物のスペシャリストといわれた吉丸さんが挑戦する、天然酵母のパンとは?

パンの移動販売をおこなっている「どんぐり」は、自家製の天然酵母を使ったパン屋さんだ。食べごたえがあって、ふんわりとした食感が、子供から大人まで人気がある。店主の吉丸さんは、コンビニのパン(袋パン)を作る会社で商品開発をする傍ら、自分でも天然酵母のパンをつくり続けてきた。

00
吉丸さん

この春、独立して新たなパン作りに挑戦している吉丸さんに、今までのご自身のパン作りについてお話を伺った。

高校のパン作り実習からパンの会社へ

最初にパンを作り始めたのはいつですか?

通っていた農業高校の授業に加工食品を作る実習があったんです。味噌や納豆、ジャムとか。その一環でパンを作ったのが最初ですね。
卒業したら就職をしようと思っていたのですが、食品を学ぶのがおもしろくなっていったんです。そしたら北海道の網走にある農業大学に、高校で学んでいた学科と同じ名前の学部があることを知って、そこに行きました。

パン屋の会社を選んだのはなぜですか?

高校の社会科実習で、パンの製造会社へ見学にいったんです。そのときに「いいパン屋さんだな」と思って。 (ちなみに就職先は、このとき見学した会社とのこと。)

お仕事は商品開発と伺いましたが?

はい。もともと食パン課という食パンを作る現場にいたのですが、しばらくして移動になり、商品開発室で働くことになりました。

商品開発って人気のある部署ですよね。

人気はありますけど、商品開発室は営業側と生産現場側の板ばさみの状態で、実際の業務は複雑です。大まかな仕事の流れは、自分で考えたパンの配合を組んで試作のテストし、現場のラインに流して問題点を見つけて、そこから商品化という感じですね。現場から難しくてできないといわれることもあります。

実際、作りたかったけど作れなかったパンってあるんですか?

自分は多少難しくてもやってました。それで現場から「悪魔」といわれることもありました。

吉丸さんが悪魔って呼ばれるんですか!?

呼ばれますよ。「殺す気か?」って。どんなに難しくても、どんなに不良が出ようともやりました。簡単すぎると買ってもらえないですから。コンビニなどにならぶ袋パンは、1ヶ月で入れ替わるのが普通で、3ヶ月で長いといわれます。難しくとも売れ筋のパンになれば、現場の反響もいいですね。稀ですが、開発したパンの中で、5年ぐらい経った今でも売られている商品があります。

ヒットする商品を作っていって、商品に対する想いとか考え方は変わりましたか?

自分は結構淡白でした。商品を生産ラインに落とし込んだあとも安定するまで確認するのが普通ですが、自分の場合は基本的に現場の担当に任せて、他の商品の開発にとりかかるようにしていました。その点を指摘されることはありましたが、商品開発に集中するスタイルは変えませんでした。もし現場のことをもっと考えていたら難しい商品に挑戦できず、消極的になってしまったこともあったと思います。

どんぐりパンの開発

当時も忙しかったと思うんですけど、会社の業務とは別に自分でパンを作っていたんですよね?

やってました。週末に会社の開発室でどんぐりパンを作って、会社の直営店で売っていました。もちろん売上は会社に入りますが、代わりにお客さんの反応をみることができましたね。

03
どんぐりパン
どんぐりパンを作りはじめたのはいつごろからですか?

6年ぐらい前ですね。元々自分はNPO団体に所属をしていて、活動の一環として子供達のサマースクールなどでパン教室をやっていました。その時にどんぐりを食べる機会があって、とても美味しかったんです。そこでどんぐりを使ってパンを作ってみようと思いついたのが、どんぐりパンのはじまりです。それからは、聾(ろう)学校や生涯学習の場で、子供達とどんぐりパンを作るようになりました。

ただ、どんぐりパンは大量に作ることが難しい商品なんです。原料のどんぐりは、子供達が工作に使ったりするものを分けてもらっています。なので、どんぐりパンを作るために採りすぎて、子供たちが使う分がなくなることは避けたいと思っています。今でもどんぐりパンは、子供達と一緒に作って楽しむパンだと思っていますから。

どんぐりパンの教室は、どのような思いでおこなっているのですか?

子供達に、落ちているもので美味しい食べ物ができるよ、ということを知ってもらうことが大事だと考えています。小麦というのは、農家でない限り粒を見ることがほとんどできません。スーパーでも小麦は粉の状態ですよね。小麦の精麦する前の粒の状態は、全部国が管理しているので、基本的に一般の人には売ってはいけないということになってるんです。
なので子供達が自分で拾ったどんぐりで、パンになることを実感できるのがいいなと思って、どんぐりでパン教室をやっています。

天然酵母のパンについて

天然酵母でパンを作るようになったのはいつごろからですか?

趣味程度で作っていたのは5年ぐらい前からです。その2年後ぐらいから、車で移動しながらパンの販売や教室をやり始めて、本格的に使い始めたのはそのころからですね。きっかけはどんぐりパンでした。最初、どんぐりパンはイーストで作っていたんですが、改良を加えていくなかで、天然酵母の方が香りがよくなることがわかったんです。

01
移動販売のトラック
02
車内にオーブンがついていて、ここでパンを焼く

そうやって天然酵母でパンを作るようになって、あらためてパンが発酵食品であると思い出しました。会社で次々とパンを開発している当時は、そのことを忘れていたとおもいます。お客さんが求める味や食感を長い時間保つパン、それを作るために添加物を使います。添加物は多すぎるとパンの品質を落としてしまうし、少なすぎると老化(傷み)が早くなってしまいます。新しい添加物を試してみたり、配合率をかえてみたりを繰り返して、欲しい味や食感を形にしていく。会社の中では「添加物のスペシャリスト」といわれていました(笑)
酵母はちゃんと発酵させるとアミノ酸もでる。材料以上に発酵でどれだけ手間をかけられるかということが、パンを本当に美味しくさせるんだと思うようになりました。

ただ天然酵母はちゃんと発酵させようとすると、パンを作れる日が限られてくるという問題があります。天然酵母はイーストにくらべて菌の数が極端に少なく、かつ弱いんです。そのためイーストにくらべて菌の割合も多くする必要があり、発酵にも時間がかかります。
酵母を24時間から36時間発酵させると、その間、パンを作ることができません。そうなると基本的に、パンの価格を相場よりも高く設定しないとカバーできないんですね。

一方で、お客さんが商品を買うとき、その商品にどのような材料が使われているのか、つまり素材の価値をみて買うのが一般的だと思います。なので手間に対する価格であることを知ってもらうのは、とても難しいと感じています。そこが天然酵母のパンを商業ベースにのせられるかどうかのネックだと思っています。最初は天然酵母だけでパンを作っていたパン屋さんが、徐々にイーストのパンに切り替えていくのは、このような一因があるからです。そうしないと品揃えの面からみても、お客さんの要望に応えられないと思います。

それでも現状、天然酵母のみでのパン作りに挑戦している理由はなんですか?

やっぱり発酵の醍醐味です。酵母液が入っている瓶を管理したり、天然酵母の種の風味をチェックしたり、そうゆうことからちゃんと発酵していることが分かる。逆に菌に元気がないときもある。そうゆう差を実感できることが楽しいです。会社員時代の、お客さんの求める味や食感を商品に落とし込んでいく仕事も十分おもしろいですが、天然酵母の世界はそれ以上におもしろいです。

誰もが気軽に食べられる天然酵母のパンをめざして

これからどんなパンを作っていきたいですか?

美味しい食パン、フランスパン、あとお客さんから要望を聞いて、おもしろい商品にチャレンジしていきたいですね。自分が今まで得てきた袋パンの知識や技術があるからこそ、作れる天然酵母のパンがあると思っています。

04
天然酵母のパン
***

吉丸さんのパンの話を聞いていると、天然酵母のパンにこだわって作られている今でも、コンビニの袋パンに変わらず思い入れをもってると感じた。添加物、というと「体に悪いもの」というイメージが先行して語られることが多い。しかし吉丸さんのパン作りは、酵母の発酵がパンの美味しさの基本であり、オーガニックの素材も人工的な添加物も、その美味しさをサポートする頼もしい助っ人という考えだ。そんな吉丸さんがおすすめしてくれるコンビニのパンは、普段は手に取ろうと思わないパンでも、食べてみたいと思えてくる。

吉丸さんに休日は何をされてるんですか?とたずねたとき、「酵母を眺めてますね」という答えがかえってきてびっくりした。でも吉丸さんが言うと妙に納得してしまう。
吉丸さんに「それって仕事ですよ」と言うと、吉丸さんは「あ、そっか。でもたのしいんですよー」といって、笑っていた。

「どんぐり」のパンが買える場所
かぎろひ
〒3370001 埼玉県さいたま市見沼区丸ヶ崎町1856 温々敷地内
048-686-8838
サイト
フェイスブック
サン・スマイル
〒356-0052
埼玉県ふじみ野市苗間1丁目15-27
049-264-1903
サイト
フェイスブック

-インタビュー